真正売買とオフバランス


倒産隔離を担保し、投資家の権利を守るためには、資産が完全にSPC(ファンド)に移転する必要があります。

そのために、資産の所有権が完全にSPCに移転していること(真正売買)、資産所有者の貸借対照表から資産が消去されていること(オフバランス)の証明が必要となります。

真正売買とオフバランスの証明のため、通常、弁護士事務所が真正売買の法律意見書を、会計事務所がオフバランスの会計意見書を書きます。

私もオフバランスやSPCが投資家の連結対象となるかどうかの会計税務意見書を書くことがあります。

 

真正売買の要件として、所有権が完全に移転していることが要件になります。

要件として、当事者の意思、売主に買い戻し権がないこと、登記などの第三者対抗要件を具備していること、取引価格が妥当なこと等が挙げられます。

買い戻しの特約がついていることになると、契約上は売買取引であっても、実質は資産を担保とした金融取引であり、それは真正売買とはみなされなくなります。

 

オフバランスの要件として、リスクと経済価値のほとんどが移転していることが要件になります。(リスク・経済価値アプローチといいます)

ほとんどが移転とは、譲渡する資産の時価に対するリスク負担割合がおおむね5%の範囲内であれば、ほとんど移転したと認定されます。

 

計算式

リスク負担割合=リスク負担の金額/資産の譲渡時の適正な価額(時価)

 

おおまかに言うと、資産の元保有者(オリジネーター、オリジネーターの関連会社含む)がSPCに資産時価の5%以上のエクイティを出資すると、このルールに抵触することになり、売買取引とは認められなくなる可能性があるということになります。

俗に5%ルールと呼ばれています。

5%ルールにつきましては、「不動産におけるオフバランス(5%ルール)」のページにもう少し詳しく記載してます。

オリジネーターがSPCに多額のエクイティ出資をしていた場合、資産価値が下落したときに、オリジネーターも損失を被るため、それは資産を売却したといえるのかとの疑問があったため、このルールができました。

注意しなければならないのは、5%ルールは会計のルールであって、会計上は売買取引と認められなくても、税務上は、売買として取り扱われてしまうことがあることです。

 

ビックカメラ事件という、会計上、売却と認められず、売却益が否認され、会計処理を訂正したのに、税務上は売買取引として認定され、売却によって払ってしまった税金は返してくれないという事件がありました。(最高裁平成25719日判決)

売却益が計上できなくなった上に、売却益にかかる税金を取られてしまうという踏んだり蹴ったりの事例です。

事例の概要は、「SPCの裁判事例(ビックカメラ事件)」というページに記載しておりますので、ご興味あれば読んでみてください。

 

この事案によって、税務当局が税会計処理基準という用語を創設し、会計と税務の判断基準が異なることがあることが明示されたように思います。

上場企業のように企業会計を導入しなければならない企業は、会計と税務をきちんと分けて判断することが必要となります。

SPCでも、SPCが上場企業の子会社と認定されてしまう場合には、注意が必要です。

SPCが子会社に該当するかどうかは、「SPC(ファンド)の連結範囲」というページに記載しておりますので、ご参照ください。

 

(参考)オフバランス判定のためのフローチャート

 

会計制度委員会報告第15号

「特別目的会社を活用した不動産の流動化に係る譲渡人の会計処理に関する実務指針」より抜粋